筋トレの可動域は広いほどいい?筋肥大研究から考える、効果を引き出す動かし方
「スクワットは、深くしゃがむほど効果があるのでしょうか」
「体が硬くて大きく動かせないと、筋トレの効果は出ないのでしょうか」
こんにちは。HIBIQA代表の藤倉翔吾です。
結論からお伝えすると、広い可動域を使うことが筋肥大に有利な条件はあります。ただし、効果を判断するには、対象の筋肉と、実際に使う範囲、負荷のかかり方まで確認する必要があります。
筋力トレーニングでは、重量や回数に注目が集まりがちです。しかし、同じ種目、同じ重量でも、動かす範囲や姿勢が変われば、筋肉が受ける刺激も変わります。
だからこそ、トレーナーには「もっと深く」「もっと大きく」という指示に加え、なぜ、その方にその可動域を設定するのかを説明できることが求められます。
今回は、NSCAジャパンの機関誌に掲載された可動域と筋肥大に関する論文を手がかりに、研究から学べることと、HIBIQAが実際の指導で大切にしている考え方をお伝えします。
可動域とは?フルレンジとパーシャルレンジの違い
関節可動域は、専門的にはROM(Range of Motion)と呼ばれます。
例えばスクワットでは、どこまで股関節や膝関節を曲げてしゃがむか。ダンベルカールでは、どこからどこまで肘を曲げ伸ばしするかが、トレーニング中のROMに関わります。
一般に、設定された全範囲を使う方法をフルレンジ、その一部を使う方法をパーシャルレンジと呼びます。
ただし、研究や種目によって「全範囲」「一部の範囲」の設定は異なります。
同じ「パーシャルスクワット」という表現でも、膝を少し曲げる動作と、膝を90度程度まで曲げる動作では、筋肉が受ける刺激は同じではありません。
大切なのは名称ではなく、実際にどの関節を、どの角度からどの角度まで動かしているかです。
筋肥大を考える三つの視点:可動域・筋長・負荷
筋肥大とは、筋線維が太くなり、筋肉のサイズが増大する適応です。
その刺激を考えるうえで重要なのが、力学的張力(筋肉が力を発揮したり、引き伸ばされたりするときに生じる張力)です。
今回の論文は、可動域による筋肥大反応の違いを、筋長と長さ-張力関係から説明するアプローチを提案しています。[1]
ここでは、次の三つを区別すると理解しやすくなります。
| 専門用語 | 意味 | トレーニングで確認すること |
|---|---|---|
| ROM:関節可動域 | 関節を動かす角度の範囲 | どこからどこまで動かすか |
| 筋長 | その姿勢における筋肉の長さ | 対象の筋肉が、どの程度伸ばされているか |
| 外的負荷 | 重力や器具など、外から加わる負荷 | どの位置で、どの方向から抵抗を受けるか |
例えば、肘を動かす角度の幅が同じでも、肘が伸びた側で動かすのか、深く曲がった側で動かすのかによって、筋肉の長さは異なります。
筋肉の長さは、その筋肉がまたいでいる関節の角度によって変化します。これは、一つの関節をまたぐ「単関節筋」にも、二つの関節をまたぐ「二関節筋」にも共通します。
二関節筋では、二つの関節の角度を合わせて考えることが重要です。例えば、ハムストリングスのうち股関節と膝関節をまたぐ筋では、膝の角度が同じでも、股関節の位置が変わることで筋長が変化します。
そのため、動かしている関節だけでなく、もう一方の関節の位置まで確認する必要があります。つまり、「大きく動かしている」という見た目だけでは、筋肉がどのような条件で負荷を受けているかまでは判断できません。
長さ-張力関係とは何か
長さ-張力関係とは、筋肉の長さと、そこで生じる張力との関係です。
筋肉の内部では、収縮に関わるアクチンとミオシンの重なり方が変わります。また、伸ばされた状態では、タイチンなどの弾性的な構造も張力に関与します。
この視点は、可動域によって筋肥大反応が異なる理由を考える手がかりになります。[1]
HIBIQAとしては、ここから「何センチ動かしたか」だけでなく、「対象の筋肉に、どの位置で負荷をかけるか」まで設計する重要性を読み取っています。
研究からわかる、可動域を設定する意味
スクワットの深さによる反応は、筋肉ごとに異なる

論文で紹介されているKuboらの研究では、若年男性17名を対象に、深さの異なるスクワットを10週間実施しています。
この条件では、膝を伸ばす筋群の発達は両群で同程度だった一方、大殿筋(お尻の大きな筋肉)や内転筋群(太ももの内側の筋肉)では、深くしゃがむ群の増加が大きかったと報告されています。[1]
ここから読み取れるのは、スクワットの深さを変えることが、鍛える部位ごとの適応に関わるということです。
HIBIQAの指導に置き換えるなら、まず明確にすべきなのは「何を目的として、このスクワットを行うのか」です。
お尻の筋肉の発達を重視するのか。立ち上がる動作を練習したいのか。運動に慣れることを優先するのか。
目的が変われば、深さ、重量、補助の有無などの設定も変わります。
膝の動く範囲が同じでも、股関節の位置で刺激が変わる
ハムストリングス(太ももの裏側の筋群)を対象とした研究も、筋長を考えるうえで参考になります。
座って行うレッグカールと、うつ伏せで行うレッグカールを比較した研究では、膝の可動域が同じでも、股関節の位置が異なっていました。
その結果、股関節と膝関節をまたぐ筋では、より長い筋長で取り組む座位の条件で、筋肥大が大きかったと報告されています。[1]
これは、同じ「膝を曲げる運動」でも、姿勢の設定がトレーニング刺激を変え得ることを示しています。
種目名や回数だけではなく、関節の位置関係まで設計する。それが、パーソナルトレーニングに求められる専門性だと私は考えています。
研究結果を、目的と条件に合わせて指導へつなげる
今回の論文では、個別の研究で観察された筋肥大反応と、それを説明するための理論が整理されています。
筋ごとの長さ-張力特性から結果を理解するという視点は、種目や可動域を選ぶうえで有益です。同時に、著者らは、その理論的な関連について、さらに検証が必要であることも示しています。[1]
ここで私が重視するのは、「研究が何を評価したのか」を明確にしたうえで、指導へ応用することです。
筋肥大を評価した研究であれば、まず筋肉のサイズの変化について読み解きます。その結果だけから、関節の痛み、日常動作の改善、運動の続けやすさまで一括して判断することはしません。
実際のパーソナルトレーニングでは、筋肥大に関する知見に、お客様の目的、運動経験、動作の安定性、運動後の反応を合わせて考えます。
研究で示された価値を理解し、その知見が役立つ条件を見極める。
これが、研究と現場をつなぐトレーナーの役割だと考えています。
HIBIQAの見解:可動域は「広さ」と「使い方」をセットで育てる
ここからは、研究を踏まえたHIBIQAとしての指導方針です。
私は、可動域を評価するときに、「どこまで動くか」と「その範囲をどう使えるか」を確認します。
例えば、補助を受ければ深くしゃがめる方でも、ご自身の力では途中でバランスを崩してしまう場合があります。
反対に、現在の可動域は小さくても、その範囲で姿勢を保ち、安定して力を発揮できる方もいます。
こうした違いを捉えるために重要なのが、モーターコントロール(目的に合わせて動きを調整する能力)です。
可動域の広さと、その範囲で体を支え、動きを調整する力。この両方を見ながら、トレーニングを組み立てます。
モビリティトレーニングで、使える動きの選択肢を増やす

HIBIQAでは、モビリティトレーニングを、関節を自分の力で動かし、その動きをコントロールするための取り組みとして位置づけています。
ストレッチなどで動かしやすさを整えたうえで、その範囲を実際の動作で使う練習につなげます。
例えばスクワットなら、足関節の背屈(つま先をすねに近づける方向の動き)や股関節の屈曲(脚を体に近づける方向の動き)、胸椎の伸展動作などを確認します。
そのうえで、足幅や支持の取り方、しゃがむ深さを調整し、本人が安定して動ける方法を探します。
可動域を広げることを、実際の動作で使える力へとつなげていく。
この過程を、HIBIQAでは大切にしています。
筋力トレーニングで、その範囲を支える力を育てる
動かしやすい範囲が見つかったら、その中で適切な負荷をかけていきます。
ここでは、漸進性過負荷(適応に合わせて、トレーニングの要求を少しずつ高めること)が基本になります。
増やす対象は、重量だけとは限りません。
同じ重量でも、動かす範囲を広げる。補助を減らす。動作を安定して繰り返せるようにする。こうした変化も、段階的な進歩になります。
ただし、可動域を広げると負荷の条件も変わるため、それまでと同じ重量が適切とは限りません。
必要に応じて重量や回数を調整し、動きの質と負荷のバランスを取り直します。
HIBIQAが、重量と一緒に「動作の条件」を記録する理由
トレーニングの進歩を評価する際には、持ち上げた重量だけでなく、その動作を行った条件を確認します。
例えば、前回より重い重量を扱えても、しゃがむ深さが大きく変わっていれば、前回と同じ条件で筋力が向上したとは判断できません。
一方、特定の範囲で力を発揮することが目的なら、意図的に可動域を限定する場合もあります。
大切なのは、その範囲を選んだ理由があり、目的に合った刺激を与えられているかです。
同様に、代償動作(目的の動きを、別の部位の動きで補うこと)も、その有無だけで評価を終えません。
対象の筋肉への負荷がどう変わるか。動作が安定しているか。お客様が違和感を訴えていないか。目的に照らして、調整が必要かを判断します。
HIBIQAでは、主に次の条件を合わせて見ていきます。
- 使用した重量と回数
- 関節を動かした範囲
- 姿勢や器具の設定
- 補助の有無と動作の安定性
- ご本人の感覚と、運動後の反応
例えば、同じ重量でも、以前より広い範囲を安定して動かせるようになれば、それは評価すべき変化です。
重量を増やすこと、動ける範囲を広げること、その範囲をコントロールできること。それぞれの進歩を見極めながら、次の課題を設定します。
体が硬い方、運動が苦手な方も、今できる範囲から
ここまで専門的な説明をしてきましたが、お客様がすべてを理解してから来店する必要はありません。
「体が硬い」
「運動の方法がわからない」
「一人では続けられない」
そうした状態から、サポートを受けながら始められることが、パーソナルトレーニングの価値です。
例えば、深くしゃがむことが難しい場合には、座面の高い椅子を使い、立ち座りから取り組む方法もあります。
その中で、足の位置や体の使い方を確認し、動作が安定してきたら、深さや負荷を調整していきます。
最初にできる範囲は、スタート地点です。
その範囲を丁寧に使いながら、必要な可動域と筋力を育てていきます。痛みやしびれがある場合は、無理に動作を広げず、状態に応じて医療機関への相談を優先します。
共鳴メソッドで、体の状態と「取り組みやすさ」を合わせる
同じ動作の説明でも、解剖学的な理由を知ると安心できる方もいれば、まず一緒に動いて感覚をつかみたい方もいます。
HIBIQAの共鳴メソッドでは、姿勢や動作などの評価に加え、HQAを通じて、その方の行動や受け止め方の傾向にも目を向けます。
評価した体の状態に合わせて内容を調整し、ご本人の反応を確かめながら、説明や声かけを変えていきます。
例えば、「股関節を屈曲させましょう」という説明よりも、「お尻を後ろの椅子に近づけましょう」と伝えるほうが動きやすい方もいます。
こうしたキューイング(動作を引き出すための短い言葉や合図)も、指導の重要な要素です。
専門知識は、お客様が実際に動ける形に変換してこそ役立ちます。
私は、研究を読み解く力と、その知見を一人ひとりに伝える力の両方を磨くことが、トレーナーの責任だと考えています。
Q&A
Q1.可動域が狭いと、筋トレの効果はありませんか?
A1.効果がないとは限りません。部分的な可動域で筋肥大が認められた研究もあります。ただし、どの筋肉を、どの範囲で、どのような負荷によって鍛えるかで結果は変わります。[1]
HIBIQAでは、現在の可動域を出発点に、目的に合う範囲と負荷を設定します。
Q2.フルレンジとパーシャルレンジは、どちらを選べばよいですか?
A2.動作を安定して行える範囲と目的から判断します。
幅広い範囲を使う練習に意味がある場合も、特定の範囲に負荷を集中させたい場合もあります。「フルかパーシャルか」という名前だけで決めず、実際の動作と体の状態を確認することが大切です。
体を柔らかくしてから通ったほうがよいですか?
事前に柔らかくしていただく必要はありません。
現在の体の状態を確認し、動かしやすさを整える取り組みと筋力トレーニングを組み合わせて進めます。一人で準備してからではなく、今の状態からご相談いただけます。
保土ヶ谷・中山・南林間で、自分に合うトレーニングを探している方へ
「体が硬いから、筋トレは難しそう」
「フォームが合っているのかわからない」
「頑張っているのに、狙った部位を使えている感じがしない」
そんな方は、HIBIQAへご相談ください。
保土ヶ谷・中山・南林間の各店で、現在の体力や動きやすさ、目的に合わせたパーソナルトレーニングをご案内しています。
HIBIQA 保土ヶ谷店
横浜市保土ヶ谷区西久保町53 植木第3ビル2〜3階
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※メニューの詳細は各店舗へご確認ください。
可動域を設定することも、トレーナーの専門性です
可動域は、重量や回数と同じように、目的に合わせて設定するトレーニング変数です。
対象の筋肉を、どの長さで、どのような負荷によって鍛えるか。そして、その動作を目の前のお客様が安定して行えるか。
この両方を考えることで、研究の知見を、一人ひとりに役立つトレーニングへとつなげられます。
私は、「なぜこの種目なのか」「なぜこの深さなのか」「なぜ今はこの負荷なのか」に、根拠と目的をもって答えられることが、指導者としての専門性だと考えています。
お客様が最初から柔軟である必要も、運動が得意である必要もありません。
今の体で取り組める範囲を見極め、動かしやすさと、その範囲を支える力を育てていく。
HIBIQAは、研究から学ぶ姿勢と、一人ひとりの変化を丁寧に見届ける姿勢を大切にしながら、トレーニングを提供してまいります。
HIBIQA代表
藤倉 翔吾
参考文献
[1]Charlie R. Ottinger,Matthew H. Sharp,Matthew W. Stefan,Raad H. Gheith,Fernando de la Espriella,Jacob M. Wilson.ストレングストレーニングにおける関節可動域に対する筋肥大反応:研究結果を理解するための新たなアプローチ.『Strength and Conditioning Journal Japan』30(9):42–56,2023年11月号.発行:特定非営利活動法人NSCAジャパン.
※本文で紹介した個別研究の結果は、上記文献での報告に基づいています。
※本記事は、NSCAまたは論文著者による推奨・監修を受けたものではありません。