運動中の痛みはどう判断する?痛みの数値化とトレーニングの調整
「運動中に痛みを感じたら、続けてよいのでしょうか」
「この痛みを、トレーナーにどう伝えればよいかわからない」
「運動直後は楽でも、翌日につらくなることがあります」
こんにちは。HIBIQA代表の藤倉翔吾です。
運動中の痛みを判断するときには、痛みの強さに加え、場所や性質、起こる動作、運動後の変化を確認する必要があります。
「我慢できるから続ける」「少し楽になったから負荷を増やす」と、その場の感覚だけで決めないことが大切です。
痛みを言葉と数字で共有し、動作や時間経過と合わせて捉える。その情報を、種目・負荷・可動域・回数の調整に生かす。
今回は、NSCAジャパンの機関誌に掲載された「痛みの定量化:運動科学における疼痛評価の方法論的レビュー」を基に、痛みの評価とトレーニングの調整について、私の見解をお伝えします。
運動中の痛みは、強さだけで判断しない
最初に整理したいのは、「痛みが何点なら運動を続けてよい」と、すべての方に共通する数字だけで判断することはできないという点です。
同じ程度の痛みでも、以前からある症状なのか、運動中に突然生じたものなのかで、対応は変わります。動きを変えると軽くなるのか、繰り返すほど強くなるのかも重要です。
指導の判断では、次の順序で情報を整理します。
- 運動より先に、医療機関での確認が必要な状態ではないか。
- どの動作・負荷・範囲で、どのような痛みが起きるのか。
- 条件を調整すると、反応はどう変わるのか。
- 運動直後だけでなく、その後の生活にどのような影響があるのか。
新しく生じた強い痛み、転倒や外傷後の痛み、増えているしびれや筋力低下などがある場合は、運動を中断し、医療機関での評価を優先します。
そのうえで運動に取り組める方には、状態に合わせた方法を検討します。治療中の場合は、医師から示されている制限や指示を踏まえて進めます。
痛みの評価は、本人の言葉から始まる
痛みは、外から見ただけでは十分にわかりません。
普段どおり歩いているように見えても、ご本人は痛みを感じているかもしれません。笑顔で会話をしていても、運動への不安を抱えている場合があります。
今回の論文には、次のように記されています。
「痛みはきわめて個人的かつ複雑な体験であり、本質的に主観的であるため、他者が直接観察することは困難である。」
出典:参考文献[1]14ページ。
「主観的」という言葉は、痛みが曖昧で信用できないという意味ではありません。痛みを理解するために、ご本人の報告が欠かせないということです。
国際疼痛学会(IASP)も、痛みは生物学的・心理学的・社会的な要因の影響を受ける個人的な体験であり、本人による痛みの報告を尊重すべきだとしています。[2]
体の状態に加え、過去の経験や不安、生活の状況も含めて理解する「生物心理社会的アプローチ」が、ここで重要になります。
これは、痛みを「気のせい」と捉える考え方ではありません。
ご本人が感じている痛みを出発点に、その背景を丁寧に確認する姿勢です。
私は、指導者の経験や見立てだけで「その程度なら大丈夫」と結論づけず、お客様の言葉を判断の中心に置くことが重要だと考えています。
痛みを数字で共有する「NRS」とは?
痛みを共有する方法の一つに、「NRS(Numerical Rating Scale:数値評価スケール)」があります。
一般的には、次の基準で痛みの強さを0〜10の数字で表します。
- 0:痛みがない
- 10:想像できる最大の痛み
例えば、次のように尋ねます。
「今、椅子から立ち上がるときの膝の痛みは、0〜10で表すといくつですか」
このように、痛みが起きる動作を指定して尋ねることで、「少し痛い」という言葉に、変化を共有するための目安を加えられます。
論文では、NRSに加え、「VAS(Visual Analog Scale:視覚的アナログスケール)」も紹介されています。VASは、両端に痛みの程度を示した直線上に、ご本人が現在の痛みに相当する位置を記す方法です。[1]
数字は、我慢強さを比べるためのものではない
同じ「4」という数字でも、痛みの場所や生活への影響は人によって異なります。
そのため、他の方の数字と比較して「これくらいなら大丈夫」と判断するためには使いません。
重要なのは、その方の中での変化です。
前回と比べてどうか。同じ動作でどうか。負荷や動かす範囲を調整すると、どう変わるか。
また、NRSは痛みの強さを共有する道具であり、組織の損傷の程度を測定したり、原因を診断したりする検査ではありません。
「数値が低いから安全」「数値が下がったから治った」と、それだけで結論づけないことが大切です。
数値と一緒に確認したい五つの情報
痛みを運動の調整に生かすには、数字に状況を添える必要があります。
| 確認すること | 質問の例 |
|---|---|
| 場所・範囲 | 指で示すと、どのあたりですか? |
| 性質 | 重い感じ、鋭い感じ、しびれる感じなど、どのように感じますか? |
| 起こる動作 | 座っているときと、立ち上がるときでは違いますか? |
| 時間経過 | 運動中、直後、その日の夜、翌朝ではどうでしたか? |
| 生活への影響 | 睡眠や階段、仕事などで困ることはありますか? |
※上の表は、文献の知見を踏まえたHIBIQAの指導上の整理です。原文の表を転載したものではありません。
例えば、「膝の痛みが3」という報告でも、安静時の痛みなのか、階段を下りるときの痛みなのかで、情報の意味は変わります。
評価では、「いつ、何をしているときの痛みか」を揃えることが重要です。
これは「測定条件の標準化(比較できるように、確認する条件を揃えること)」という考え方です。
同じ動作、同じ範囲、同じタイミングで確認することで、前回との違いを捉えやすくなります。
ただし、確認のために痛みを何度も再現させる必要はありません。ご本人の報告と、無理なく確認できる動作から情報を集めます。
運動で痛みが軽くなる「運動誘発性鎮痛」
運動の後に、痛みの感じ方が一時的に弱まることがあります。
この現象は、「EIH(Exercise-Induced Hypoalgesia:運動誘発性鎮痛)」と呼ばれます。
論文では、有酸素運動やレジスタンストレーニング(筋肉に抵抗をかける運動)などに伴うEIHが整理されています。[1]
その背景には、「下行性疼痛抑制(脳から脊髄へ向かう経路などを通して、痛みの情報処理を抑える仕組み)」を含む、複数の生理学的・心理学的なメカニズムが関わると考えられています。
ただし、反応は一様ではありません。
運動の種類や強度、既存の痛み、心理状態などによって変わり、慢性的な痛みがある方では、鎮痛反応が小さい場合や、反対に痛みへの感受性が高まる場合もあります。[1]
この知見から私が重視するのは、運動の一般的な効果を知ることに加え、「その方に実際に起きた反応」を確認することです。
痛みを和らげるために、痛みを我慢する必要はない
この点について、論文には次の記述があります。
「重要な点は、EIH をもたらす運動が、痛みを伴う必要はないことである。」
出典:参考文献[1]13ページ。
この一文は、運動が苦手な方や、痛みへの不安がある方への指導で、特に大切にしたい知見です。
痛みを我慢できたことを、トレーニングの成果にする必要はありません。
運動が適切と判断される状況では、種目、負荷、可動域、回数、休息を調整し、その方が取り組める条件を探していきます。
運動直後に楽になっても、それだけで負荷を増やさない
運動後に痛みが軽くなることは、ご本人にとって意味のある変化です。
一方で、一時的な疼痛感受性の変化と、組織の回復や長期的な機能改善は、分けて評価する必要があります。
その場の「楽になった」という反応を受け止めながら、動作の安定性や、その日の夜、翌日の状態まで確認する。
その場でできたことと、継続して取り組めることの両方を見極めることが、次の負荷を決めるうえで重要です。
HIBIQAの見解:評価した情報を、運動の調整に使う

ここからは、文献の知見を踏まえたHIBIQAとしての指導方針です。
痛みを聞いたり、数字を記録したりする目的は、その情報を指導に反映することです。
例えば、スクワットに不安がある方なら、いきなり回数を増やすのではなく、座面の高さ、支えの有無、しゃがむ範囲などを検討します。
主な調整項目は、次のとおりです。
| 調整する項目 | 検討する内容 |
|---|---|
| 種目・姿勢 | 立位から座位へ変える、支えを使うなど |
| 外的負荷 | ダンベルや器具による抵抗を調整する |
| 可動域 | 関節を動かす範囲を調整する |
| 運動量 | 回数やセット数を調整する |
| 休息・頻度 | 休む時間や、次回までの間隔を見直す |
これらを一度に増やすのではなく、何を変更し、その後どうなったかを確認します。
大切なのは、「どれだけ頑張れたか」に加え、「どの条件なら取り組めたか」を把握することです。
筋力トレーニングで、体を支える力を育てる
筋力トレーニングでは、立つ、座る、物を持つといった動作に必要な力を育てることを目指します。
「アイソメトリック運動(関節を大きく動かさず、筋肉に力を入れる運動)」も、状況によって検討できる選択肢です。
ただし、特定の運動なら誰でも痛みが軽くなる、という処方はしません。現在の状態と、実施した際の反応を確認して選択します。
モビリティトレーニングで、調整できる動きを育てる
モビリティトレーニングでは、関節を自分の力で動かし、その範囲をコントロールすることを目指します。
痛みが気になるときには、無理に大きく動かすことにこだわらず、取り組める範囲や姿勢を探します。
有酸素運動も有用な選択肢ですが、ご自宅でウォーキングなどを続けられることを、HIBIQAで運動を始める条件にはしていません。
一人で取り組むことが難しい方こそ、サポートを受けながら、現在の体に合う運動を見つけられる環境が大切だと考えています。
共鳴メソッドで大切にする「痛みを伝えられる関係」

評価の道具があっても、ご本人が遠慮してしまえば、必要な情報を共有できません。
「せっかく教えてくれているから、止めたいと言いにくい」
「弱いと思われたくない」
「この程度で痛いと言ってよいのかわからない」
こうした気持ちにも配慮する必要があります。
HIBIQAの共鳴メソッドでは、体の状態とともに、その方の受け止め方や行動の傾向を理解し、説明や声かけを調整することを大切にしています。
HQAは、そのための対話を支える情報の一つです。痛みの原因や程度を診断するためのものではありません。
「痛みや違和感があれば、途中でも教えてください」
「動かす範囲や負荷は、調整できます」
「前回の後、生活の中で気になったことはありましたか」
そして、伝えていただいた内容を、実際のプログラム調整に反映する。
この積み重ねによって、「痛いと言ってもよい」「相談すれば方法を変えてもらえる」という関係をつくることが重要です。
私にとって専門性とは、知識を説明する力に加え、お客様の体験を聞き取り、指導に生かす力でもあります。
痛みと運動について、知っておきたいこと
痛みがある場合、必ず運動を休むべきですか?
痛みの原因や状態によって異なります。適切に調整した運動が役立つ場合も、先に診断や治療が必要な場合もあります。
新しく生じた症状や悪化している症状については、自己判断で運動量を増やさず、医療機関で確認することが大切です。
痛みを数字で表すのが苦手です。
無理に正確な数字を出そうとする必要はありません。
「前回より強い」「この動きでは気にならない」「夜のほうがつらい」といった言葉も重要な情報です。数値評価を補助として使いながら、伝えやすい方法で共有します。
機器を使えば、痛みは客観的にわかりますか?
論文では、「QST(Quantitative Sensory Testing:定量的感覚検査)」など、痛みへの感受性を調べる方法も紹介されています。
ただし、適切な器具や標準化された手順、実施者の訓練が必要です。また、本人が痛みを感じたという報告が関わる検査もあり、機器だけで痛みのすべてを把握できるわけではありません。[1]
HIBIQAでの状態確認は、医療機関による検査や診断の代わりではありません。
保土ヶ谷・中山・南林間で、運動への不安をご相談ください
「腰や膝が気になり、運動を始めるきっかけがつかめない」
「自分に合った負荷がわからない」
「一人では続けられない」
HIBIQAでは、こうした不安も含めてご相談いただけます。
ご相談の際には、気になる症状や受診状況、医師からの指示があればお知らせください。必要な医療的評価を踏まえ、その方が取り組める運動を考えます。
HIBIQA 保土ヶ谷店
横浜市保土ヶ谷区西久保町53 植木第3ビル2〜3階
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HIBIQA 中山店
横浜市緑区台村町324番地 平野ビル3階
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HIBIQA 南林間店(FC店)
大和市南林間1-10-17 加瀬ビル182 4階
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※提供メニューの詳細は各店舗へご確認ください。
痛みを評価する目的は、次の一歩を適切に選ぶこと
痛みを評価することは、その方の状態を理解し、運動の選択や調整につなげるための過程です。
数字で変化を捉える。言葉で体験を理解する。動作と生活への影響を確認する。そして、その情報から次の一歩を考える。
私は、痛みの数字を下げることだけに目を向けず、「何ができるようになりたいのか」「何を不安に感じているのか」まで共有することを大切にしたいと考えています。
HIBIQAは、一人で運動を始めることが難しい方にとっても、今の状態を伝え、自分に合う取り組み方を相談できる場所でありたいと思います。
HIBIQA代表
藤倉 翔吾
参考文献
[1]Brandi Antonio,Violette Gibbs,Jeffrey R. Stout,Abigail W. Anderson.痛みの定量化:運動科学における疼痛評価の方法論的レビュー.『Strength and Conditioning Journal Japan』33(6):12–26,2026年7月号.発行:特定非営利活動法人NSCAジャパン.
本文中の直接引用:13ページ、14ページ。
[2]International Association for the Study of Pain(IASP).Terminology:Pain.
国際疼痛学会:痛みの定義と注記
※本記事は、NSCAまたは論文著者による推奨・監修を受けたものではありません。