野球の筋トレを球速アップにつなげるには?投手の評価から考えるトレーニング設計
筋力はついてきたのに、球速が思うように伸びない。下半身や体幹を鍛えているが、投球動作にどう生かせばよいかわからない。
野球のトレーニングを考えるとき、大切なのは「どの種目を行うか」とともに、「その選手の何を改善するために行うか」を明確にすることです。
こんにちは。HIBIQA代表の藤倉翔吾です。私は日本大学準硬式野球部でトレーニング指導を担当しています。
指導において重視しているのは、筋力や瞬発力を高め、その能力を競技動作に結びつけること。そして、試合で力を発揮できるよう、コンディションを整えることです。
今回は、NSCAジャパンの機関誌に掲載された、野球投手のテストとトレーニングを統合する論文[1]を手がかりに、球速向上と肩・肘への負担への配慮を両立させるトレーニング設計について、私の見解をお伝えします。
球速アップを考えるとき、筋力と一緒に評価したいこと
球速を高めるうえで、筋力トレーニングは重要な選択肢です。ただし、持ち上げられる重量の増加と、投球速度の向上は同じ現象ではありません。
投球では、下肢・骨盤・体幹・上肢が時間的に協調し、ボールを加速させます。この一連のつながりを「キネティックチェーン(運動連鎖)」といいます。
地面に力を加え、その反作用である「床反力」を利用しながら、各部位が適切なタイミングで働くことが求められます。[1]
そのため、私が野球選手のトレーニングを考える際には、次の要素を分けて捉えます。
- 力を生み出す能力
- 必要な姿勢をとるための可動性
- 限られた時間で力を発揮する能力
- 各部位を協調させる能力
- 高速動作を減速・制御する能力
例えば、下半身の筋力が十分にあっても、必要な股関節の動きを確保できていない場合と、動ける範囲はあっても短時間の力発揮に課題がある場合とでは、優先する取り組みが変わります。
「球速を上げたい」という同じ目標でも、全員に同じメニューが適しているわけではありません。
投手の体づくりは「加速」と「減速」を一緒に考える
投球動作の6つの局面
金色の線は投球腕です。各局面をゆっくり切り替えて表示します。
※各局面の流れを示す独自の模式図です。 動作は説明のために簡略化し、各局面を同じ時間で表示しています。 実際の関節角度・動作速度や、全選手に共通する理想のフォームを示すものではありません。 端末で動きを減らす設定を使用している場合は、静止表示になります。
投球動作では、ボールを速くする能力に注目が集まりやすい一方、リリース後に腕の動きを制御する能力も重要です。
肩関節後方の筋群やローテーターカフ(肩関節の安定に関わる深部の筋群)は、投球中の関節制御や、腕の減速に関わります。特に減速局面では、筋が引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性筋活動」が求められます。[1]
ここから私が重視するのは、出力を高めるトレーニングと、その出力を受け止めるための準備を組み合わせることです。
高い出力を発揮できるようになったとしても、その選手の可動性、肩周囲の筋力・持久力、投球量に対する回復が伴っているかを確認する必要があります。
肩周囲のトレーニングも、目的によって設定が変わります。
最大筋力を高めたいのか、反復動作に対応する持久力を高めたいのか。それとも、素早い力発揮や減速への対応を狙うのか。目的を明確にしたうえで、負荷・速度・回数・休息を選びます。
球速向上を目指すからこそ、その力を繰り返し使える体を育てる。これが、私のトレーニング設計の基本的な考え方です。
測定は、次のトレーニングを決めるために行う
参考論文では、継続的な評価の必要性について、次のように述べられています。
「専門職はモニタリング方策の一環として、テストを定期的に実施するべきである。」
出典:参考文献[1]47ページ。
この一文を、私は「選手の変化を確かめ、その結果に応じてトレーニング処方を更新する」という実践上の指針として捉えています。
例えば、筋力が向上したにもかかわらず競技動作に変化が見られない場合、さらに筋力を追求する前に、動作の協調性や力発揮の速度、疲労の影響を見直す余地があります。
逆に、動作の再現性が高まっていても出力が不足しているなら、筋力やパワーを育てる取り組みの優先度が上がるかもしれません。
重要なのは、測定結果から仮説を立て、トレーニングを行い、再評価することです。
私は次の流れで考えます。
- 試合や練習で、何に困っているのかを把握する。
- その課題に関わる体力・動作を評価する。
- 改善を狙う要素を絞る。
- トレーニングを実施する。
- 測定値と競技動作の両方で変化を確かめる。
測定項目を増やすこと自体よりも、「この結果が出たら、次に何を変えるか」を説明できることが大切だと考えています。
投手の評価で確認したい四つの視点
1.肩・胸椎・股関節の可動性
ROM(Range of Motion:関節可動域)は、関節が動く範囲を表します。
投球では、肩関節だけでなく、胸椎(背中の胸部に位置する背骨)の回旋や、股関節の伸展・内旋なども評価対象になります。[1]
ここで大切なのは、単純に「柔らかいほどよい」と考えないことです。
例えば肩関節では、内旋だけを切り取るのではなく、外旋と合わせたTROM(Total Range of Motion:総回旋可動域)も確認します。投球への適応や骨の形態も関係するため、左右差だけで問題を断定することはできません。
私が確認したいのは、競技で必要な範囲を確保できているか、その範囲を自分で制御できるか、痛みや過剰な代償動作がないかです。
代償動作とは、ある部位の動きを別の部位で補うことです。例えば、肩を動かす際に腰を大きく反らせている場合、見た目の動きの大きさだけでは、肩そのものの可動性を判断できません。
オーバーヘッドスクワット
バーを頭上に保持し、ゆっくりしゃがんで立ち上がる動作です。 緑色は体幹と脚、金色は腕を示しています。
※両腕・両脚の重なりを省略した説明用の模式図です。 関節角度や体節の長さは簡略化しています。 しゃがむ深さや負荷は、可動域と動作の習熟度に合わせて調整してください。 端末の「動きを減らす」設定が有効な場合は静止表示になります。
2.肩周囲の筋力と持久力
肩関節の内旋・外旋筋力や、肩関節後部の持久力は、投手の身体的特質を把握する手がかりになります。[1]
一度だけ強く力を出せることと、反復する投球に対応することは、異なる側面です。
そのため、最大の力発揮だけでなく、繰り返したときの動作の変化や本人が感じる疲労も確認したいと考えています。
評価結果は、既往歴や投球量、症状と合わせて解釈します。単一の測定値だけで、傷害の発生を予測したり、安全を保証したりするものではありません。
3.下半身のパワーと力発揮の時間特性
CMJ(Countermovement Jump:一度しゃがみ込んでから跳ぶ垂直跳び)は、下半身のパフォーマンスを評価する方法の一つです。
フォースプレート(床に加わる力を測定する機器)があれば、跳躍高に加えて、力が時間とともにどう変化したかを調べられます。[1]
ここで注目したい指標に、RFD(Rate of Force Development:力の立ち上がり率)があります。これは、力がどれだけ急速に増加するかを示す指標です。
最大筋力が「どこまで大きな力を出せるか」であれば、RFDは「短い時間の中で、どのように力を立ち上げるか」を考える手がかりになります。
ただし、跳躍高だけからRFDを読み取ることはできません。また、ジャンプの測定値が、そのまま投球動作の能力を表すわけでもありません。
私なら、ジャンプを下半身の状態を把握する材料として使い、投球映像や競技中の出力と組み合わせて判断します。
4.全身の力を統合する能力
ローテーショナルメディシンボールスロー(体の回旋を使って重いボールを投げる運動)は、全身を協調させた出力を確認する方法の一つです。
参考論文では、メディシンボールを用いた回旋スローの速度と、野球選手の球速・バットのスイング速度との関連が紹介されています。[1]
この知見は、回旋を伴う全身の力発揮を評価する意義を示しています。ただし、関連があることと、その種目を行えば必ず球速やスイング速度が上がることは同じではありません。
私の見解では、測定条件を揃えたうえで変化を追い、投球・打撃でも改善が見られるかを確かめることが重要です。
数字とともに「どう動いて、その結果を出したか」を見る
参考論文では、結果を生み出した動作についても、次のように述べられています。
「また、成果を達成するためにアスリートが利用する方策を観察し、記録することも非常に重要である。」
出典:参考文献[1]47ページ。
これは、私が現場で特に大切にしたい視点です。
同じ距離までメディシンボールを投げられたとしても、股関節と体幹を協調させた結果なのか、腰を過度に反らせて投げた結果なのかによって、その意味は変わります。
可動域の測定値が増えても、別の部位の動きが混ざっている場合には、狙っていた改善が起きたとは限りません。
再測定では、姿勢、用具、ウォーミングアップ、実施順序、試技間の休息などを可能な限り揃えます。また、小さな数値の変化には、測定誤差やテストへの慣れも含まれる可能性があります。
記録の向上に加えて、動作の再現性、症状、本人の感覚まで確認する。そこまで行って初めて、測定が指導に役立つと考えています。
私の見解:筋力を、競技で使える能力へ発展させる
私は野球選手のトレーニングを、次の三つの課題を行き来しながら設計するものと考えています。
力を生み出す基盤を育てる
スクワットなどのレジスタンストレーニング(抵抗に対して力を発揮するトレーニング)は、力を発揮する能力を育てる手段になります。
ただし、全員が同じ種目・深さ・重量を目指す必要はありません。トレーニング歴、体格、可動域、動作の習熟度に合わせて設定します。
重量の更新は成長を確認する指標の一つですが、そのために狙った動作を失っていないかも確認します。
短時間で力を発揮する能力を育てる
筋力とともに、動作に使える時間の中で力を発揮する能力を高めます。
選手の習熟度に応じて、ジャンプ、メディシンボールスロー、ウエイトリフティングの派生種目などを選択肢とします。
ここでは、反復回数をこなすことだけでなく、出力と動作の質を保つことを重視します。疲労によって速度や動作が大きく変わるなら、回数・負荷・休息を見直します。
競技動作への転移を確認する
トレーニングによる能力向上が、競技のパフォーマンスに生かされることを「転移」といいます。
球速、スイング速度、送球や打撃の再現性など、その選手の目標に対応する指標を確認し、トレーニングの成果がどう現れているかを見ます。
投手であれば、球速とともにコントロール、投球後の状態、次の登板に向けた回復も重要です。
この三つは、全員が順番に終えていく固定的な段階ではありません。選手の課題やシーズンの時期に応じて、重点を変えていくものです。
日本大学準硬式野球部での指導にもつながる視点
日本大学準硬式野球部での指導でも、「競技で求められる能力を分析し、評価からトレーニングを選び、競技動作で確かめる」という考え方を重視しています。
野球では、ポジションやプレー場面によって、必要な能力とその使い方が異なります。共通する体力基盤を育てながら、それぞれの選手が試合で直面する課題に合わせて、トレーニングの優先順位を決めることが重要です。
打撃では、下肢・骨盤・体幹・上肢の協調が求められます。送球では、守備位置や捕球姿勢によって、力を発揮できる時間や足場が変わります。走塁では、加速や方向転換に対応する能力も必要です。
私の指導では、筋力の向上に加えて、股関節を介した体重移動、体幹の回旋、瞬発的な力発揮を、競技動作へつなげることを重視しています。
また、連戦中とオフシーズンでは、同じトレーニングの意味も変わります。
試合が続く時期には、筋力やパワーへの刺激を確保しながら、残存疲労(次の練習や試合まで残る疲労)を抑える必要があります。強度・回数・セット数を調整し、「鍛えること」と「試合で発揮すること」を両立させる設計が重要です。
トレーニングの評価は、翌日の筋肉痛やその場の疲労感に加えて、次の試合でどのように動けたかまで確認する。それが、競技を支える指導だと考えています。
痛みや疲労の訴えも、重要な評価情報になる
測定値が改善していても、投げるたびに痛みが増えているなら、そのまま負荷を上げる判断はできません。
参考論文のまとめでも、客観的な測定値と、選手自身が報告する症状や経験を関連づける重要性が述べられています。[1]
私が確認したいのは、数値に加えて、次のような情報です。
- 投球中・投球後に、どこへ違和感が出るか
- 翌日まで、どの程度の疲労が残るか
- 普段と比べて、動作の感覚が変わっていないか
- 練習や試合の負荷に、回復が追いついているか
選手が痛みや違和感を率直に伝えられることは、負荷を適切に調整するために重要です。指導者には、その訴えを受け止め、測定結果や練習状況と合わせて判断する姿勢が求められます。
肩や肘の痛みが続く場合、急な痛みや明らかな機能低下がある場合には、医療機関での評価を優先します。医療職からの指示がある場合には、その内容を踏まえてトレーニングを調整します。
野球のトレーニングは「何を、なぜ鍛えるか」で変わる
球速を上げるために、下半身を鍛える。体幹を鍛える。肩周囲を強化する。
それぞれに意味があります。その意味を選手ごとに明確にし、優先順位をつけるために、評価が必要です。
私が目指すのは、「この選手には、この能力が必要だから、このトレーニングを行う」と説明できる指導です。
そして、実施後には測定値と競技動作、選手自身の感覚を確かめ、必要に応じて修正する。
力を生み出し、動作につなげ、その動作を繰り返せるようにする。研究の知見を現場の判断に生かしながら、選手が試合で力を発揮できる体づくりを追求していきます。
HIBIQA代表
藤倉 翔吾
横浜・保土ヶ谷・中山を拠点に発信する、トレーニングの専門情報
HIBIQA代表ブログでは、野球などの競技トレーニングから、日常の健康づくりまで、研究の知見や指導現場の視点を交えて解説しています。
店舗へのアクセスやサービスについては、各店舗のページをご覧ください。藤倉の指導に関するご相談は、お問い合わせ時にその旨をお知らせください。
※店舗ごとに担当スタッフ・提供内容が異なります。
参考文献
[1]Gus Morrison,Ben Ashworth,Paul J. Read.
「野球における投手のパフォーマンスと健康を至適化するためのテストおよびトレーニングの統合:成果重視アプローチ」
『Strength and Conditioning Journal Japan』第33巻第3号,44–57ページ,2026年4月号.
発行:特定非営利活動法人NSCAジャパン.
本記事の研究に関する記述は上記文献を参照し、トレーニング設計や現場への応用については、藤倉翔吾の見解として記載しています。
※本記事は、NSCAまたは論文著者による推奨・監修を受けたものではありません。